2021年のロボティクスとUbuntuを振り返る

by Canonical on 28 January 2022

ニュースとイベント満載の年でした。大規模なコンテストがフィナーレを迎え、新しいロボットが夢を与えてくれました。2021年は、さらなる向上やブレイクスルーへの刺激に満ちた年でした。

UbuntuおよびCanonicalのオープンソースツールは何百万人ものロボティクス開発者にご利用いただいています。ぜひその分野の1年を振り返ってみましょう。2021年の勝利と敗北。新聞や雑誌のトップを飾った新製品。秀逸なチュートリアルやホワイトペーパー。そしてみんなの想像力をかき立てたR&D(研究開発)関係者の成果。これが2021年です!

コンテストがロボティクスの進化に貢献

今年は、地下経路探索と高速運転という2つのエッジ分野でロボティクスの進歩を追求した2つの大規模なコンテストがフィナーレを迎えました。

9月にはDARPA(米国防高等研究計画局)のサブテラニアン・チャレンジの決勝戦があり、一刻を争う戦闘や災害対応を想定し、短時間で地下環境の地図作成、経路探索、調査を行う新しいアプローチが披露されました。DARPAは2018年に最初のサブテラニアン(サブT)・チャレンジを開催し、オープンソースロボティクスを支援しています。

3年にわたるこのコンテストでは「チームCERBERUS」が優勝を飾りました!

10月にはインディ・オートノマス・チャレンジの決勝戦があり、9チームがインディアナポリス・モーター・スピードウェイでスピードを競いました。合計9カ国の21大学のうち、プログラミング済みのレースカー「Dallara AV-21」が優勝し、150万ドルの賞金を獲得しました。自動運転車の革新を目指した1年間のコンテストに参加したのは25チーム以上、決勝戦に進んだのは9チームでした。

迫力あるレースを制し、栄冠をつかんだのはミュンヘン工科大学(TUM)です。お見逃しの方は過去の記事をお読みください

Ubuntuはどちらのイベントにも登場し、チームの力となり、両方のコンテストで優勝に輝きました!これほどの栄誉はありません。オープンソースロボティクス、そして皆さんの勝利です。

注目を浴びたロボティクス新製品

製造現場や倉庫の外に出れば、ロボティクスはまだ目新しい存在です。特に医療、農業、社会支援などの複雑な分野での製品市場化は、大きな注目を集めます。ここでは毎月のロボティクスニュースに掲載された優秀な製品を3つご紹介しましょう。

最初はAstroです。Amazonが開発したこの家庭用ロボットは、ロボティクス関係者の間で論議の的となりました。Astroの開発については、あせったエンジニアが締め切りに間に合わせるために準備もできていない技術を使ったという噂がありました。デバイスの耐久性に対する不満も多くありました。プライバシーも常に取り沙汰されました。「誰がロボットのカップホルダーにビールを置くのか」という疑問も生じました。それでもAmazonは家庭用ロボット業界全体に大きな成果を残しました。消費者の教育です。詳細はロボティクスに対するAstroの影響をご覧ください。

Xiaomiが発表したオープンソースの手頃な四つ足ロボット「CyberDog」も大きな話題となりました。この中国の大手テクノロジー企業が今年後半にCyberDogを発表し、ロボット開発環境の向上とロボット業界の発展を促進するとアピールしました。有名なSpotに比べ、CyberDogの基本価格は1,540米ドルです。手頃な価格は、多くの研究機関やスタートアップ企業による4足ロボット向けのロボティクスアプリケーションの開発を加速すると期待されます。これもROSとUbuntuを使用したオープンソースです。Cyberdogの詳細はこちら

最後にUBTECH Walker Xに触れないわけにはいきません。人間型ロボットを作るのは容易ではありません。家庭で人間型ロボットを使用するというのは、現時点ではまだ夢物語です。UBTECHの新ロボットもまだロボット「執事」には至らないかもしれませんが、世界的なAI/ヒューマノイドロボット会社による大きな約束と言えます。商業的なリスクがこの分野の進歩を加速したことも忘れてはなりません。Walker Xが今後も順調に歩むことを祈りましょう!Walker Xの詳細は7月のニュースをご覧ください。

ROSとUbuntu:パートナーシップは始まったばかり 

ROSがUbuntuで始まったことをご存じですか? ROSのまさに初のリリース「Box Turtle」はUbuntu Hardyでリリースされました。この10年、UbuntuはROSをネイティブサポートし、ロボティクスの無限の進歩を可能にしています。Canonicalはこの責任を軽く考えず、常に開発者を念頭に置いて進んでいます。このたび業界へのロボティクス普及を促進するため、ROSの維持管理を担うOpen Roboticsとの関係強化を発表しました。

4月、CanonicalはOpen Roboticsと提携し、ROS ESMを通じて、10年間のセキュリティサポート付きの強固なROSを提供すると発表しました。これによりユーザーは、ROSのセキュリティメンテナンスを利用し、ROSとUbuntuの専門家によるスピーディーで質の高いバグ修正を1カ所から確実に得られます。

このパートナーシップの狙いは、製品/サービスプロバイダーにサイバーセキュリティが必須とされる規制の厳しい業界へのROSの普及です。ROS ESMは、サイバーセキュリティ規制への適合、あるいはアップストリームリポジトリを維持する経費削減においてお客様をサポートします。

ROS ESMの詳細はこちら >   

ROS Kineticの提供終了

2021年4月で、ROS Kineticリリースと対応のUbuntuディストリビューションであるXenialは提供終了(EOL)となりました。つまり、ROSとUbuntuの両方についてセキュリティ更新やCVE(Common Vulnerabilities and Exposures)、さらにはPython 2などの依存関係も終了します。

ROS Kineticは2016年のリリースで、ROSの2番目のLTSリリースでした。極めて広く利用された大型のディストリビューションであり、リポジトリは1,233にのぼります。合計コミット数は5,319、1日(アクティブ)あたり平均4.3でした。Gazebo 7、OpenCV 3など当時の新しい関連コンポーネントもサポートしていました。

改めて、ROS Kineticをロボティクス史に残る存在としてくださったすべての皆様にお礼を申し上げます。

ロボットのセキュリティと適合性を維持するため、まだ移行がお済みでない方は移行オプションをご覧ください。

最優秀ホワイトペーパー:DockerとROS

Canonicalの最も優秀なホワイトペーパーのテーマは「Dockerがすべての解決策ではない」ということ。2022年にあまり歓迎される意見ではありません。Dockerは、柔軟なクラウド運用という主に1つの用途のために設計され、維持管理されました。だからこそ人気を博したのであり、Docker Inc.のロードマップの意図もそこにあります。

しかし他に良いものがなかったため、何にでも使うようになりました。釘を打つための道具を使って、表面を磨く、板を切る、穴を開ける、ついにはエッジデバイスにアプリケーションを組み込む、といった具合です。これは明らかに行き過ぎ、しかもサポートなしです。

今年の最優秀ホワイトペーパーはこちら:ROSとDocker:手元に金槌しかなければすべてが釘に見える

 

最優秀チュートリアル:RPi PicoでMicroROSを使用するには

まさに運命のコンビ。MicroROSを使えば同じROSフレームワークでマイクロコントローラを制御できます。これにより開発者はマイクロコントローラとROS 2アプリケーションを接続し、さまざまなセンサーやアクチュエータを使用できます。その最優秀チュートリアルがこちら:Raspberry Pi Picoでmicro-ROSを使用するには

最優秀ケーススタディ:ドローンインフラへの近道

産業用ドローンの用途は、過去数年間で急速に増加しました。最終的な目標は、どんなビジネスでもドローンを導入できるような新しいフライトプラットフォームの構築です。CanonicalはSmartDroneと協力し、ばらばらのオープンソーステクノロジーからほとんどどんなドローンプロジェクトにも対応する産業グレードのフライトプラットフォームを開発するという難題の克服を支援しました。

その最優秀ケーススタディがこちら:SmartDroneがUbuntu Coreでドローンインフラ革命をスピードアップ

注目に値するR&Dプロジェクト

ロボティクスの現場はラボに始まり、各研究プロジェクト、論文、あるいは革新の起こる場所にスピンアウトします。ロボットの心となる研究者は全員が称賛に値します。Ubuntuは研究者の味方となることを誇りに思います。

今年、Canonicalは社内の注目を集め、すばらしい論文として発表された2つのプロジェクトを挙げたいと思います。  

大きな成果なのに見た目が小さいのはよくあること。シンガポールの南洋理工大学(NTU Singapore)の科学者チームはそれを実証しました。チームは、磁界を使った制御で繊細かつ器用な動きのできるミリメートルサイズのロボットを開発しました。ミニロボットは磁気を帯びた微粒子を生体適合性ポリマーに組み込んで製作されています。材料は無毒で人間に害を与えません。

他にもミニロボットの例はありますが、このロボットは6 DoFの自由度で他の43倍の速度で回転でき、方向も高精度で制御可能です。また「柔らかい」材料で作られているため、重要な機械特性を再現できます。このことが生物医学や製造における未来の用途につながるかもしれません。

ロボティクス移植に関する研究も特筆に値します。1型糖尿病治療の大きな課題は薬物送達システムです。インスリンポンプは市販されていますが、チューブや針で身体に外から穴を開けて薬を入れるハードウェアが必要です。

イタリアのバイオロボティクス研究所の研究者はこの問題を解決するプロジェクトを発表しました。生理学的プロセスを代行または復元するロボットを内臓の中で機能させるのです。PILLSID(PILl-refiLled implanted System for Intraperitoneal Delivery)は、完全に移植可能なロボティックデバイスで、薬を入れた磁気ピルを飲み込むことでデバイスに薬を補給できます(信じられませんよね? 図をご覧ください)。補給を受けたデバイスはプログラム可能なマイクロ注入システムとして機能し、腹腔内で正確に薬剤を送達します。デバイスの重量は165g、サイズは78×63×35mmです。

最後にモノコプター「F-SAM」にご注目ください。シンガポール工科デザイン大学(SUTD)の研究者が開発したF-SAMとは「折り畳み可能シングルアクチュエータモノコプター」を意味します。デザインのもとになったのは翼果、つまりカエデの木から回転しながら落ちる1枚羽根の種です。このモノコプターは折り畳むことができ、制御にはアクチュエータ1個しか使用しません。本体のみで、しかも安定して予測可能な形で回転します。バッテリーがなくなれば翼果のように静かに着陸します。    

最優秀動画

この動画は、注意を引き、驚かせ、笑うことの少なくなっていた年に皆をにっこりさせました。インパクトも強烈ですが、デモンストレーションを綿密に計画し、複数の動作を協調させるには、長い時間、試行、手作業での入力が必要でした。しかし再生回数は3,546万379にのぼり、文句なく人気第1位のロボット動画です。舞台裏の動画にUbuntuが映っているのも憎いところ。

そう言えば公開は2020年12月29日ですね!2020年の総括に入れるには遅すぎました。今、しかるべき評価を与えましょう。皆さん、Boston Dynamicsです!

1年で最大の損失:人間型ロボット

多くの方と同様、私にとっても人間型ロボットとの出会いはPepperでした。最初の出会いをどうして忘れられるでしょうか? カラフルな光に彩られた大きな黒い目。話すときに動く精巧な手と指。ダンスの動き……私はPepperとともに英国中を回り、医療分野におけるロボティクスの可能性を説きました。そして技術的な欠陥、予測不能性、アプリケーション不足にもかかわらず、私はロボットにのめり込みました。 

ですからその生産終了の知らせは大きな悲しみです。ロイターによれば、ソフトバンクは需要低迷を受け、昨年のどこかの時点でPepperロボットの生産を停止しました。今年9月までにソフトバンクはフランスのソフトバンクロボティクスヨーロッパの従業員330人の約半数を削減しました。過去3年間、長期的な売上が低迷し、JDNはソフトバンクロボティクスヨーロッパが1億ユーロ以上の損失を出していたと報じています。現在、同社はプロジェクトの買収を模索しています。

7年にわたって販売されたPepperは複数の教訓を与えてくれました。最大の教訓はコミュニティとオープンソースコントリビューションの重要性です。自社開発の音声認識技術、厄介な開発ツール、小規模なアプリエコシステムなど、クローズドデバイスのシステムでは、お客様の期待や技術の進歩に追いつけませんでした。最後には、革新を続け、お客様のニーズに応えるのにコストがかかりすぎるプロジェクトになりました。技術の進歩をサポートするコミュニティコントリビューションがあれば、そのような事態は避けられたでしょう。

Aldebaranからソフトバンクへ。Pepperにとっては長い旅でした。次に交流ロボットを作ろうという方は、このロボットを見て欠点や成果から学んでほしいと思います。Pepperの生産終了の詳細は6月号をご覧ください。

今年の最優秀賞

今年のブログに3回も登場し、とにかく目を離すことができません。これは人類史における画期的な出来事であると同時に、遠い望みをかなえるために忍耐(perseverance)と工夫(ingenuity)がどれだけ重要かを示してくれました。2021年の最優秀賞はNASAです。

まさに工学技術の傑作。2021年2月18日、探査車「Perseverance(パーセベランス)」が火星に着陸しました。そしてドローン「Ingenuity(インジェヌイティ)」が初めて別の惑星を飛びました。Perseveranceは23台のカメラを積んだ移動研究室であり、ドリルで火星の岩石や土壌のサンプルを収集します。ミッションの目的は、古代の生命の痕跡を探し、将来のミッションで地球へ戻ったときのために岩石や堆積物の試料を試験管に収集することです。

Ingenuityは、火星でも電気で飛べることを実証した最初のロボットです。火星ヘリコプターと呼ばれるIngenuityは、Perseveranceの腹部に取り付けられた形で火星に着陸しました。重量は1.8 kg、プロペラの速度は2,400 rpmに達します。4月、Ingenuityは高度5mまで自律的に上昇し、2,500回転/分以上で水平に50m(フットボール場の半分の長さ)飛行しました。

NASAはこの2台のロボットで世界を驚かせただけでなく、NASAの新しい自由飛行型ロボット「Astrobee(アストロビー)」も導入しました。このロボットは宇宙飛行士が日常業務に費やす時間を短縮し、人間にしかできないことに力を注ぐ手助けをします。

さらにNASAは、ROSのサポートおよびこのプロジェクトの用途を宇宙にまで拡大する計画を発表しました。Astrobeeのほか、ROS 2は2023年、NASAのVolatiles Investigating Polar Exploration Rover(VIPER、揮発性物質調査用極地探検探査車)のとともに100日間のミッションで月に到達します。VIPERとは月の南極に着陸し、水、氷、その他の資源を探してクレーターを詳しく調査する移動式ロボットです。水を調達できれば、いつか月、火星、それ以外の宇宙で人間がもっと長期的に調査を継続できるかもしれません!

NASAは、オープンソースロボティクスのオープンな開発という精神と人類にもたらす可能性に賭けています。このような点すべてからNASA(そして関連のすべての組織に感謝します!)が2021年の最優秀賞です。おめでとうございます!

記憶に残る年

ロボットは宇宙の星に到達し、スピード記録を破りました。深い地底に潜り、高い空にも上がりました。鮮やかなダンスを披露し、さらなる進歩の可能性も見せました。2022年の幕開けとともに、革新の新しい章を開くのは皆さんの研究です。皆さんが次に何を構築するのか待ちきれません。Canonicalのロボティクスチームを代表し、すばらしい2021年にしてくださった皆さんに感謝を申し上げます!

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