自動車におけるAIの最大のユースケース(自動運転だけではない)

by Canonical on 4 July 2024

車載AIの主な4つのユースケースの調査

急速な技術革新の時代において、自動車業界に根本的な転換を引き起こしているのが人工知能(AI)です。AIは、スマートな車両の設計や、車内での操作のカスタマイズなど、輸送のあらゆる側面を再定義し、運転者と乗員の両方にとって安全でより効果的、そして環境に優しい移動手段を作り上げます。

このブログ記事では、自動車業界において最も有望なAIの4つのユースケースについて解説します。

インテリジェント車両のライフサイクル管理

革新的な車両の設計、材料の使用、製造プロセス

AI駆動の生成型設計アルゴリズムによって、車両のコンセプト構築とエンジニアリングを変革し、創造性と効率性の境界を押し広げることができます。これらのアルゴリズムにより、膨大な量のデータセットを分析し、数多くの設計の繰り返しを試みて、最高のパフォーマンス、安全性、持続可能性が得られるよう、車両の構造を最適化できます。

さらに、AIによって材料の選択方法も革新されます。メーカーはこの能力を活用して、それぞれのコンポーネントに最適な材料を特定し、強度、重量、環境への影響について最良のバランスを実現できます。その結果、より軽量で燃料効率が高く、技術的に進歩し、持続可能な生産が可能な車両を生み出し、業界と将来をよりグリーンにするため役立ちます。

予測的メンテナンスと診断

AIにより可能になる予測的メンテナンスシステムは、問題の識別と対処の方法を再定義し、車両のメンテナンスの状況を一変させます。

一部の車両には100を超えるセンターが組み込まれており、エンジンの燃料と酸素の混合状況、タイヤの圧力、コンポーネントの温度や方向など、あらゆる要素を追跡します。AIアルゴリズムは、それらのセンサーからのデータを使用して、機械的および電気的な障害を発生前に予測することで、予防的なメンテナンスを可能にします。

結果として、車両の使用不可時間が最小化され、メンテナンスのコストを削減でき、運転者により円滑でよりシームレスなオーナーシップエクスペリエンスが保証されます。

サプライチェーンの拡張

AIにより、車両が軽量でより効率的になるだけではなく、車両を製造してショールームや車両展示場に送る作業も簡単になります。自動車メーカーは、AIアルゴリズムを使用して需要予測、在庫管理、物流作業に関する大量のデータを分析し、サプライチェーンプロセスの合理化や製造効率の全体的な向上に役立てることができます。

AI駆動のサプライチェーンの拡張によって、OEM(相手先ブランド製造企業)は需要の変動を予測し、在庫の水準を最適化して、リードタイムを最小化することで、コストを削減するとともに、市場の動きに対する応答性を改善できます。さらに、AIにより予測的な分析を行って事前にリスクを管理できるため、メーカーは中断の可能性を識別し、生産に影響を及ぼす前に軽減できます。これにより、自動車会社は変化が激しい今日の市場において、より柔軟で、復元性を持ち、競合力を得ることができます。

実際の応用の例として、修理工場や倉庫も含む広大な拠点のネットワーク全体にわたって部品を発送する業務が挙げられます。AIアルゴリズムにより気象データ、顧客の修理の習慣、季節的な傾向、在庫レベルなど数多くの要員を分析して需要を予測し、部品の発送を最適化できます。AIを使い、さまざまなソースからの情報を予測的分析によって統合することで、自動車会社はサプライチェーンを事前に管理し、部品をタイムリーに発送するとともに、コストを最適化、効率性を最大化できます。

この方法は、農業の会社で採用されている戦略と同じものです。農業ではAIを使用して収穫機の修理部品の発送を最適化し、サプライチェーン全体の復元性とパフォーマンスを拡張しています。

車内のエクスペリエンスと接続性の拡張

車載AIは、車両だけでなく、その車両を使う人間のエクスペリエンスも改善します。AIにより車内のエクスペリエンスが画期的に向上し、運転者と乗員の快適性、利便性、接続性がシームレスにブレンドされます。

車内エクスペリエンスのパーソナリゼーション

どんな車にも同じ設定をする時代は終わりました。AIにより、車内のエクスペリエンスは高度にパーソナライズされ、それぞれの乗員の好みや必要に適合できるようになります。AIアルゴリズムにより、運転者の行動、環境条件、これまでの使用パターンのデータを分析し、車両内のさまざまな設定を調整することで、運転者に固有のエクスペリエンスを作り出すことができます。

まっさらの車に乗るとき、あるいは親戚の車に乗るときを想像してください。乗ってすぐに、ハンドルの高さ、ミラー、シート、ヘッドレストのすべてが自分の運転しやすいよう、最適な視界が得られるよう調節されます。空調は最も快適な19℃に設定されます(親戚は燃料の無駄だと思うでしょうが)。カーラジオには、お気に入りのラジオ局が登録されます。車内GPSは、以前の移動経路と現在の交通状況に基づいて、自宅への望ましい経路を提案します。これがAIを利用したユーザーエクスペリエンスの威力です。

AIにより、すべての移動が可能なかぎり快適で楽しいものとなります。このレベルのパーソナリゼーションを行うことで、運転の総合的なエクスペリエンスが改善されるだけでなく、運転者の満足度が向上し、自動車ブランドへの信頼も強まります。

自然言語処理によるスマートアシスタント

今日の世界は、これまでにないほど密接に接続されています。しかし、問題がひとつあります。ほとんどの国では、運転中に運転者(正しくは、運転者のスマートフォン)を接続する器具を使うことは違法です。この単純な事実から、AI駆動による自然言語アシスタントが必須の友になります。これらのアシスタントにより、車両システムとのハンズフリーな対話が可能になり、運転者は音声コマンドのみを使用して広範なタスクを行えるようになります。

電話呼び出し、テキストメッセージの送信、ナビゲーション設定の調整、エンターテイメントのオプションの制御など、AI駆動の自然言語アシスタントによって運転が安全で、より便利なものになります。これらのアシスタントは、予定表、メール、スマートフォンなど、他のサービスやデバイスとシームレスに統合されるため、運転者に接続された完璧なエクスペリエンスを約束します。AIコンパニオンなら午後3時に受け取った「牛乳を買ってきて」というテキストを記憶し、近くのコンビニに自動的に寄ってくれます。コンビニが営業中で、いつも買うブランドのオーガニック、3.5%全脂肪、放牧牛のミルクがあることも確認済みです。AIの能力を活用することで、自然言語アシスタントは車両を運転者のデジタルライフの延長に変え、生産性を向上するとともに、移動中でも常に接続性を維持できます。

高度なモバイルソリューションと都市計画

AIは、車両と運転者よりもさらに広い範囲に影響を及ぼすことができます。マクロな規模では、そのデータとフィードバックが道路、都市、さらには環境そのものまでも改善できます。都市化がますます加速し、都市が混雑、汚染、インフラストラクチャの制限に関連する課題の増大に直面するにつれ、AIは高度なモビリティソリューションと都市計画戦略を可能にする主要な原動力として浮かび上がります。

マルチモーダルAIアシスタントとアプリ間の統合

AI駆動のマルチモーダルアシスタントの統合は、モビリティソリューションにおける大きな進歩を示すものです。これらのアシスタントは、移動の異なるモード間の遷移をシームレスに促進し、調和した直感的なエクスペリエンスをユーザーに提供します。これらのアシスタントは、音声コマンド、イメージ、ビデオフィードなどさまざまな入力を処理できるため、多用途なインターフェイスとして機能し、ユーザーを車両や周囲の環境と結び付けます。

これらのアシスタントは交通パターン、混雑のホットスポット、ユーザーの好みなど膨大な量のデータを分析することで、運転者を支援するだけでなく、輸送システムの総合的な改善にも貢献します。たとえば、近くのアトラクションやサービスなどの関心ポイント(POI)を勧めるのは、運転者を楽しませるためだけではありません。車を分散させて渋滞を緩和し、最終的には道路上のすべての人が協調的に楽しく移動できるようにすることも目的としています。

都市交通の最適化

人口が稠密な都市区域では、モビリティを維持し、環境への影響を軽減するため、効率的な輸送システムが不可欠です。都市の輸送計画とインフラストラクチャを最適するため、AIは中心的な役割を果たし、データ分析と予測型モデルを使用して効率性と持続可能性を向上させます。

AIアルゴリズムは、交通パターン、公共交通機関のスケジュール、環境条件を含む巨大なデータセットを分析して、経路の調整、交通信号の同期、モーダルシフトのインセンティブなど最適化の機会を識別します。さらに、AIは動的な価格付けや需要対応型のサービスを促進し、輸送ネットワークが必要や好みの変化に対応できることを保証します。都市輸送の最適化最適化によって、都市の混雑を緩和し、放出を減らして、総合的なモビリティを強化し、より楽しく持続可能な都市環境を作り上げます。

旅行の予約とモビリティサービス

AI駆動による旅行の予約、配車プラットフォーム、およびサービスとしてのモビリティ(MaaS)ソリューションにより、個別に精選され統合される輸送オプションを使用でき、個人の好みや必要に応じて調整されます。これらのプラットフォームは、AIアルゴリズムの支援を受けてユーザーのデータ、これまでの旅行パターン、リアルタイムでの利用可能性を分析して、公共輸送、ライドシェアリング、マイクロモビリティのオプションを含む、カスタマイズされた旅行日程を作り出します。これらの計画はモード選択に留まらず、オフピークの旅行の計算、価格の急騰の予測、カスタムのお勧めなどニュアンスの部分の検討を含めることで、最良の旅行のエクスペリエンスを実現します。たとえば、AIはユーザーの車の好み、たとえば荷物を置くスペースの広さ、車載のエンターテイメント機能、または最もダイレクトで停止回数が少ない経路などに基づいて旅行のオプションを推奨することも可能です。

また、旅行の効率を高め、ストレスを減らすよう、交通状況、天気予報、ユーザーの好みなどを考慮して旅行の経路とスケジュールを最適化することもできます。

旅行の予約を合理化し、カスタマイズされたモビリティソリューションを提供することで、都市での総合的なモビリティエクスペリエンスを拡張し、より簡単かつ便利に都市間を移動して目的地に到着できるようにします。

自動運転のシミュレーションとテスト

自動運転(AD)の追求は自動車テクノロジーの最前線であり、より安全で、効率的で、便利な輸送ソリューションを約束します。この試みの中心は、厳格なシミュレーションおよびテストのプロセスを支援するためAIを使用し、自動運転車の信頼性と安全性を保証することです。

複雑なADのシミュレーションシナリオ

先進運転支援システム(ADAS)と自動運転技術の開発と検証には、多様で複雑なシナリオでの大規模なテストが必要です。

AI駆動のシミュレーションプラットフォームはこのプロセスにおいて重要な役割を果たし、現実世界の運転条件を模倣する、現実的で動的な環境を作り出します。これらのシミュレーションは、さまざまな気象条件、道路の配置、交通パターン、予見不能なイベントなどの広範なシナリオを包含しており、開発者は事実上あらゆる状況で自動運転システムのパフォーマンスを評価できます。

これらのシミュレーションは、AIアルゴリズムを使用して継続的に進化と適合を続けており、新しいデータやインサイトを取り入れて現実性や有効性を拡張しています。その結果として、開発者は自動運転のアルゴリズムの洗練と最適化を繰り返し、安全で信頼性の高い自動運転車の開発を加速できます。

AIとADの統合

ADシステムの中核にあるのはAIアルゴリズムの統合で、車両が周囲の環境をリアルタイムで認識し、解釈して、対応できるようにします。AIはカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、レーダーなど各種のセンサーからのデータを処理してオブジェクトを識別し、障害物を検出して、それらの動きを予測します。

高度な機械学習プロセスによって、AIアルゴリズムは継続的に学習と改善を行い、自動運転機能の正確性と信頼性を高めていきます。さらに、AIは複雑で動的な環境での意思決定を促進し、車両が嵐や混雑などあらゆる運転状況で安全かつ効率的に移動できるようにします。

AIを自動運転システムに統合することで、自動車メーカーはさらに安全で、道路を他の車両と共有できる自動運転車を作り上げられます。

影響力がありスマートな自動車のイノベーションをAIが実現

最後に、自動車業界におけるAIの普及により、イノベーションの新時代が到来し、運転エクスペリエンスのあらゆる面が変わりました。車両の設計とメンテナンスの革新や、サプライチェーンの最適化と都市でのモビリティの拡張など、AIによって前例のない進歩が推進され、より安全で効率的な、持続可能な輸送ソリューションが実現します。

このブログ記事で解説したAIの応用分野は、自動車分野におけるその影響がどれだけ広範かつ深遠かを示すものです。AI駆動の設計および製造プロセスにより、クリエイティビティと効率性の境界が押し広げられるとともに、予測的メンテナンスシステムにより道路上での車両の信頼性と長い寿命が保証されます。車内のエクスペリエンスのパーソナリゼーションと自然言語アシスタントにより、運転者が車両を操作する方法が再定義される一方で、高度なモビリティソリューションと都市計画戦略により、都市間を移動し、都市と関わる方法が一変します。さらに、サプライチェーンの最適化や自動運転技術の促進におけるAIの役割は、AIが自動車のエコシステム全体を変革できる可能性を浮かび上がらせます。AIの能力を活用することで、自動車会社は効率性、持続可能性、イノベーションの新しい可能性を解放し、モビリティがよりスマートで、安全で、誰にでもアクセスしやすくなる将来に私たちを運んでくれます。

将来を見据えれば、輸送の将来を形作るうえでAIが主要な役割を果たし続けることは明らかです。

ニュースレターのサインアップ

Ubuntuニュースレターの配信登録

お客様が購読登録を行われる場合、以下の条件に同意されたことになります。Canonicalのプライバシーに関するお知らせ個人情報保護ポリシー

関連記事

リアルタイムLinuxに関するCTO向けガイド

リアルタイムシステムおよびそのユースケースと仕組みを理解する 最近の予測によると、2025年には世界のデータの30%近くがリアルタイム処理を必要とします。制御システム、産業用エッジサーバー、PLC、ロボット、ドローンなどを駆動する産業用PCとリアルタイム機能への需要は高まる一方です。ワークロードによって必要なリアルタイムパフォーマンスやサイクルタイムは異なりますが、リアルタイムコンピューティングは今後もますます普及するというのがアナリストの見解です。 また、ソフトウェアがハードウェアデバイスや周辺機器を綿密にサポートすることで、Linuxカーネルを介したリアルタイムコンピューティングが活躍しています。カーネルにリアルタイム機能を持たせる多くのアプローチの中で、PREEMP […]

Canonical Jobs – Linuxエンジニア

Linuxフィールドエンジニア IoT分野における当社の主力製品、Ubuntu Coreはユニークな存在です。最高の信頼性、セキュリティ、フットプリントを実現するため、Linuxを再発明したものと言えます。当社の顧客は、自動車、市販電子機器、医療機器、産業システム、ロボティクス、ゲートウェイなど、さまざまな業界にわたりますが、厳しい品質とセキュリティの要件を満たすよう迫られているという点では共通しています。 日本市場での急速な展開に対応するため、当社はデバイス部門のフィールドエンジニアチームの拡大を検討しています。この重要なポジションは、新しいテクノロジーを迅速に習得し、多くの業界の最先端でお客様のソリューション構築を支援することが求められるため、能力ある候補者はキャリア […]

Canonical社が提供する「Ubuntu Pro for Devices」に基づく新事業を展開 ~パートナーと連携した新しい事業を立ち上げ~

株式会社アイ・オー・データ機器(本社:石川県金沢市、代表取締役会長:細野 昭雄、以下、アイ・オー・データ)は、Canonical Group, Ltd.(本社:英国ロンドン、CEO:Mark Shuttleworth、以下:Canonical社)とLinux OS 「Ubuntu」のライセンス契約を合意し、Canonical社が提供する「Ubuntu Pro for Devices」プログラムに基づき、Ubuntuを活用した新事業や新商品を展開することを発表いたします。 ビジネス概要 アイ・オー・データはLinux OS 「Ubuntu」搭載デバイスをより広く、手軽に使っていただくため、Canonicalの「Ubuntu Pro for Devices」プログラムに基づい […]