ソフトウェア定義型自動車の謎を解く

by Canonical on 22 August 2023

ソフトウェア定義:業界のUターン

ソフトウェア定義型自動車(SDV)の登場により、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(カーシェアリング)、Electric(電気自動車)の普及が急速に進んでいます。この4つはあまりに顕著なため、すでに業界では「CASE」という頭字語で呼ばれています。

消費者による期待の高まりもSDV化に拍車をかけ、車載ハードウェアとソフトウェアの両方に難題を課しています。CASEのトレンドと消費者のニーズに対応するには、従来の自動車の構造を見直し、設計を再考する必要があります。新しい構造には、多くの要件の中でも特にアップグレード、パフォーマンス、セキュリティが求められます。

これは自動車業界にとって大きな変化であり、対応するには新しいソフトウェアスキル、メソドロジー、ビジネスモデルが必要です。さらに自動車メーカーは、複雑で厳しい業界規格に準拠して人命に関わる機能を守る必要があります。

この記事では、ハードウェアとソフトウェアの複雑性、サイバーセキュリティ、安全性に関して業界が直面する各種の課題に注目します。車載機器メーカー(OEM)がソフトウェア企業の例に倣い、ソフトウェア定義型自動車への移行を乗り切って成功する方法についても検討します。

ソフトウェア定義型自動車(SDV)とは

誰でも車の仕組み、たとえばエンジン、燃料、車輪についてある程度の知識を持っています。では、車の購入後、無線でのソフトウェア更新によってサスペンションの設定やアクセルの性能を変更できるとしたらどうでしょう。確かに車の複雑性は増します。しかし、そのような機能はすでに可能なのです!

スマートフォンでソフトウェアを更新後、低光量の写真が最適化されたりするのと同じです。自動車でもソフトウェアの更新によってアルゴリズムの改良を反映し、エンジンの性能やバッテリー消費を改善することが可能です。これが、今どきの車は「タイヤのあるコンピューター」と呼ばれる理由です。

メーカーにとってのSDVの課題とメリット

従来、OEMメーカーは電気/電子(E/E)アーキテクチャをベースに特定のタスクを実行する何百ものECUを実装し、それがベンダー依存の原因となるとともに、異なる車種への拡張性を阻んでいました。

このプラットフォームを新しくするには多大な費用がかかり、OEMのラインナップ全体で使用可能なソフトウェアを改善するというよりも、特定の車種専用ソフトウェアの管理に費やしたリソースの無駄になります。その上、ユーザーは、セキュリティパッチだけでなく新しい機能やサービスなどの定期的な更新を期待しています。

このような要望に応えるため、OEMメーカーは、ハードウェア主体の構造から、ネットワーク経由の更新管理やコンポーネント間の通信に対応したソフトウェア重視の構造へと切り替える必要性を認識しています。

ソフトウェア定義型自動車(SDV)は、自動車業界における大きな転換を意味します。SDVは、ソフトウェアベースのシステムを利用してパフォーマンスを向上し、リソースの消費を効率化します。メーカーは、複数のコンポーネントの複雑な組み合わせから、容易に管理できる少数のシステムに移行する必要があります。

ソフトウェア定義型自動車の主な利点:

  • 複雑性とコストの削減
  • 市場化期間の短縮
  • 製品品質の向上
  • ハードウェアとソフトウェアの柔軟性

機能とソフトウェアサービスに重点を置くことにより、SDVはセキュリティとユーザー体験の向上も可能にします。このためには、価値創出プロセス全体をソフトウェア中心に考え直す必要があります。

車載ハードウェアの複雑化

自動車の設計がソフトウェア中心になるにつれ、メーカーはハードウェア固有の困難と戦わねばなりません。

従来、OEMメーカーは多数の車種やバリエーションを扱い、それが多様なコンポーネント、プラットフォーム、設定の増大につながっていました。その背景には、地域特有の制約、顧客によるカスタマイズ、車種やブランドの魅力を高めるための製品オプションなどがあります。

Jeremy Bezanger(Unsplash

かつて車に接続機能はありませんでした(または基本的なインターネット接続のみ)。継続的な更新と機能拡張から現在の状況が生じました。OEMメーカーは既存のシステムを何とか維持しつつ、過去のプラットフォームに頼らない新しいプラットフォームの開発に取り組んでいます。

この複雑な状況を緩和するには、まずハードウェアとソフトウェアの依存性を軽減する必要があります。これはすでにクラウドとスマートフォンの世界で起こっています。たとえばiPhoneの場合、複数世代のiPhoneで同じiOSのバージョンを実行できます。同じiPhoneで別バージョンのiOSに更新することも可能です。

しかしこのような依存性の解消は簡単ではありません。ハードウェアの開発とソフトウェアの開発を切り離すことは、結局、ビジネスモデル、仕入れ、働き方の変化を意味します。しかも業界は、車のハードウェアとソフトウェアを容易に結ぶための明確な規格を欠いています。

ソフトウェアの複雑性とソリューション

現在、たとえ重複するソフトウェアや機能があっても、大半のOEMメーカーではまったく異なる環境に移植しなければならないため、既存のソフトウェアを再利用できません。移植には手間がかかり、互換性の問題が生じる可能性もあります。

さらに複雑なことに、電子制御ユニット(ECU)は昔からサイロ型に設計され、それぞれ独自のハードウェアとソフトウェア(ミドルウェア、OS、サービスを含む)を持ちます。

この問題を解決する1つの方法は、共通の抽象化レイヤーを車全体に導入し、既存のソフトウェアを再利用することです。これにより複雑なハードウェアとソフトウェアの構成が大幅に簡素化されます。ソフトウェア定義型自動車(SDV)の設計にはこれが含まれます。

SDVは更新や互換性の確保を容易にするだけでなく、サイロ型の専用ECUから、ゾーン型の高性能コンピューティング(HPC)を重視したアーキテクチャへの移行により、将来も確実に使える電気/電子(E/E)アーキテクチャの基盤となります。

サイバーセキュリティの問題

車が「タイヤのあるコンピューター」に近づき、組み込みソフトウェアが増えるにつれ、脆弱性が生じる危険も増します。OEMメーカーは一般に、複数のサプライヤーに共通のプラットフォームでの作業とツールの開発を依頼しています。

企業秘密の理由から、このようなツールや開発の内容を業界全体に共有することはめったになく、脆弱性に共同で取り組むことも難しいのが現状です。

それに加え、規制の強化とともに、CVE(Common Vulnerabilities and Exposures:一般的な脆弱性と露出)に対するパッチと修正がメーカーに義務付けられています。前述のシステムの複雑性を考慮すれば、今後はさらに全体的にソフトウェア定義型の環境に移行することが必須と言えます。

企業が規制の要件を満たしつつ、最新のユーザー体験を提供し、ハードウェアの複雑性に対処する柔軟性と拡張性を提供するのは、ソフトウェア定義型の開発アプローチしかありません。

変化する自動車業界におけるセキュリティとリアルタイムLinux

もちろんサイバーセキュリティはソフトウェアだけの問題ではありません。ハードウェアの脆弱性もありますし、一般にソフトウェアを上回る被害をもたらします。ソフトウェアで解決可能なハードウェアの問題もありますが、ハードウェアのCVEの多くは永続的です。

たとえば世界で最も多いハードウェアの脆弱性であるMeltdownとSpectreは現在も存在し、多くのデバイスに害を与えています。つまり脆弱性を軽減するには、ハードウェアの設計段階から仕様やシステムアーキテクチャにおいてサイバーセキュリティを考慮する必要があるということです。

安全性の問題

次は安全性です。最近の車の大半にはADAS(先進運転支援システム)がデフォルトで搭載されています。ADASは、アクセル、ブレーキ、ステアリングなどの重要な機能を利用および制御します。車の運転者や同乗者の安全を守るため、メーカーには所定の機能安全基準を満たすことが求められます。

機能安全の目的は、システムの機能不全によるリスクと危険を抑えることです。自動運転(AD)により、安全性は車を選ぶ際の重要な差別化要因となる可能性があります。

前述のテーマを考えると、安全関連のシステムは常に安全基準の認証に適合する必要があります。また新しいサービスや機能については、必ず安全システムに干渉しないことを確認する必要があります。

今後に向けた備え

今回のブログ記事では、ソフトウェア定義型自動車の時代に向けて業界が対処しなければならない複雑な問題を扱いました。しかし他にも厄介な問題が数多くあります。

写真:Denys NevozhaiUnsplashより

このような課題の詳細は、CanonicalのSDVに関するガイドをお読みください。新しいビジネスモデル、機能安全、開発サイクルの改善、ソフトウェアの再利用まで、業界の大きな転換に関する分析情報をご紹介します。

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