コネクテッドカー向けのソフトウェア開発:Anbox Cloudで着実に前進

by Canonical on 30 June 2025

大手自動車メーカーの間で、車載インフォテイメント用のオペレーティングシステムとしてAndroid Automotive OS(AAOS)が人気です。AAOSは、車内でもAndroidスマホと同様にさまざまなアプリケーション、機能、サービスを使用するための総合的なインフォテイメントプラットフォームです。

AAOSを使えば運転を楽しく快適にする新しいアプリケーションや機能の開発が容易になるため、対応アプリやサービスのエコシステムが急速に成長しています。

しかし、安定したインフォテイメントシステムの開発は、困難に満ちた長い道のりです。ハードウェアの提供状況、ロジスティクス、システム設定にも多くの課題があります。たとえばハードウェアの依存関係が問題を引き起こし、テストを遅らせることはよくあります。開発者のテスト環境と異なるハードウェアのバリアントが多いため、典型的なテストベンチを作るのも大変です。

クラウドネイティブのアプローチは物理的なハードウェアの問題に対する有力な解決策です。物理的な出荷、取り扱い、設定が要らず、一貫した拡張可能な環境が得られます。オンボーディングも簡単です。このブログでは、特に車載環境におけるAnbox Cloudの特長と利点を解説します。

Anbox Cloud:インフォテイメントシステムを改善するクラウドネイティブのアプローチ

通常、車載機器の開発には広範なテストと検証が必要です。これは時間のかかる反復作業である上、システム開発の段階でハードウェアの品質にばらつきがあればさらに複雑になります。

Anbox Cloudはクラウドネイティブのアプローチを採用し、Androidベースのシステムやアプリを開発/テストする一貫した安全な環境を作ります。つまり開発と具体的なハードウェアを切り離し、自動車業界に一般的な断片化と互換性の問題を軽減するのです。

このアプローチにより、開発者はテストリソースをクラウド内で自由に調節し、作業のピーク(開発の節目や製品のリリース)に容易に対応できます。開発環境は常に反応が速く、負荷が大きいときでも高いパフォーマンスを失いません。高い拡張性とコスト効率を備えたAnbox Cloudにより、車載開発チームは、予測不能な出来事、ニーズの変更、市場の状況に短時間で柔軟に反応できます。また、開発に予期しない遅れが生じるのを防ぎ、チームがスムーズに技術を活用できるよう、CanonicalはAnbox Cloud環境に対する年中無休の24時間サポートを提供します。

以下に、車載アプリの開発におけるAnbox Cloudの多くのメリットを詳しく見てみましょう。

最低限のユーザーあたりコストでインフォテイメント開発の効率を向上

Anbox Cloudの大きな強みはその起源にあります。Anbox Cloudはもともとクラウドゲーム用に作成され、速い反応と高い信頼性を必要とするゲーム環境に最適化されました。コンピューター上のユーザーとAndroidシステムをクラウドで実行するサーバー間のレイテンシは非常に低く抑えられています。また、サーバーあたりの同時ユーザー数は非常に多く想定され、Anbox Cloudを実行するサーバー1台に100人以上のプレーヤーが接続した状態でテストされました。車載機器開発では一般に、サーバーテストでのレイテンシを低く抑え、優れたユーザーエクスペリエンスを提供する必要があります。このためAnbox Cloudは絶好の選択肢となりました。さらにサーバーあたりの同時ユーザー数が多ければ、コスト効果も高くなります。

カスタマイズされたAAOSイメージをサポートすることも、車載ソフトウェア開発でAnbox Cloudを使用する大きな理由です。仮想インフォテイメント機器をクラウド上で実行しながら開発、デバッグ、テストでき、Androidツール(Android Studio、ADBなど)も使用できるからです。Anbox Cloudは大手パブリッククラウドのほか、プライベートクラウドでも使用可能です。サーバーはx86とArmの両方、GPUはIntel、AMD、NVIDIAに対応しています。

安定性と高性能だけではありません。コスト効果にも優れています。200人以上のAndroid開発者を擁するOEMメーカーやサプライヤーにおいて、Anbox Cloudのユーザーあたりのコストは非常に低くなります。

車載機器向けAnbox Cloudは、Androidアプリ/イメージ向けのインフォテイメント開発に特化したツールや機能も備えています。次に、このような機能の詳細に注目し、それらがどのようにソフトウェア開発、テスト、導入に役立つかを検討します。

最新のAAOSイメージ

アプリケーションをテストし、正しく動作することを確認するには、AAOSイメージのサポートが不可欠です。Anbox Cloudでは、Android Open Source Project(AOSP)とAndroid Automotive OS(AAOS)の両方のリファレンスイメージを導入し、実行できます。これにより開発者は、ターゲットとするハードウェアや用途に近い安定した環境で、自分のAndroidアプリケーションの実装とテストを開始できます。

Androidのリファレンスイメージで実行すれば、開発者はバグや矛盾点などの潜在的な問題を開発サイクルの早期に検出できます。そしてターゲットハードウェアにアプリを導入する前に、この管理された環境で問題を修正できます。チームが反復とテストを速やかに行うことで、時間とリソースが節約されます。

Androidイメージのカスタマイズ

OEMメーカーやサプライヤーは、AAOSイメージを無修正のまま使用するのではなく、個々のニーズに合わせてカスタマイズします。AAOSイメージをカスタマイズするのは1つのチームですが、Androidアプリケーションの開発やテストを担当するチームも同じAAOSイメージ(またはそのイメージの旧バージョン)を使用する必要があります。

ここで開発の成功を決めるのは時間と一貫性です。カスタマイズされたイメージを他のチームと共有するのが早ければ早いほど、製品を短時間で市場に投入できるからです。各チームは、チームのメンバーがまったく同じ環境にアクセスできるよう、使用するカスタマイズ済みAAOSイメージ(役割やニーズに応じてベータ版や最新の安定版)を選択する必要があります。Anbox Cloudは、AAOSから作られたカスタマイズ済みのAndroidイメージをサポートすることで、チームの効率的な協力を可能にし、統合リスクの軽減、製品クオリティの向上、開発時間の短縮に貢献します。

VHALプロパティでシミュレート

Android Automotiveの決定的な特長は、VHAL(Vehicle Hardware Abstraction Layer)です。このインターフェイスを通じてアプリケーションは、下にあるハードウェアの仕様を抽象化し、車の特性や機能にアクセスしたり操作したりします。VHALプロパティは、開発者にとって車のさまざまな状況や挙動をシミュレートする貴重なツールです。

Anbox CloudではVHALプロパティを直接変更できるため、テストや開発中のオプションが増えます。開発者はさまざまなシナリオを試し、カスタマイズ済みのAAOSシステムやAndroidアプリケーションがどのように反応するかを直接把握できます。この高度なコントロールにより、Anboxはアプリケーションが完全にテスト済みで実世界の状況に対処できることを確認できます。

開発者は必要に応じて、エッジケースやストレステストをアプリケーションに実行します。VHALプロパティを操作すれば、高速や低バッテリー残量などの厳しい状況をシミュレートできます。そしてアプリケーションの安定性と反応速度を維持しつつ、潜在的な弱点や改善点を明らかにし、ソフトウェアの堅牢性を高めることができます。

ソフトウェア開発者は、Anbox Cloudユーザーインターフェイスから簡単にVHALプロパティを利用し、実装をテストできます。Anbox CloudユーザーインターフェイスのVHALプロパティの部分は、特定OEMのVHAL拡張を追加するなど具体的なニーズに合わせて変更可能です。VHALプロパティをAPIから使用し、大規模に自動テストを実行することも可能です。

クラウドでのデバッグ

ソフトウェア開発には常にデバッグが必要であり、Androidも例外ではありません。Anbox Cloudは、クラウドインスタンスをデバッグできるよう、Android開発用のデバッグ環境であるAndroid Debug Bridge(ADB)へのエンドツーエンドのセキュアアクセスを提供します。開発者はAnbox Cloudで引き続きAndroidツール(Android Studioなど)を使用し、ADBとクラウド環境で動作するAAOSインスタンスを接続することで、Android Studioで通常の開発作業やデバッグ作業(ブレークポイントの追加、ステップ実行など)を実行できます。同じツールが、クラウド上の仮想Androidデバイスで動作するだけです。

Androidの設定と画面のカスタマイズ

開発者は、具体的なニーズや用途に応じてAndroidのシステム設定や画面を変更できます。ユーザーインターフェイスにブランドアイデンティティを加える、特定のハードウェア向けにシステム設定を最適化する、ニッチアプリケーションを開発/テストするなどです。最終製品はさまざまな車載アプリケーションにぴったり合わせてカスタマイズされます。複数の自動車ブランドを持つOEMメーカーは、車ごとに異なるデザインのAAOSベースのシステムを導入します。

すべての設定と画面をすべての対応言語でテストするには、自動化が必要です。Anbox Cloudでは、信頼できる反復可能な形で大規模に自動テスターを実行できます。

Androidアプリケーションのテスト

アプリケーションを成功させるには、使用する前のテストが必須です。アプリケーションテストの要件は多面的です。

まず、すべてのアプリケーションはシステムのすべての設定(対応言語すべてを含む)でテストする必要があります。これには、車の走行中、駐車中など、すべてのVHALシナリオも含まれます。

また、AAOSシステムはOEMメーカーのニーズに合わせてカスタマイズされているため、アプリケーションはその環境でもテストする必要があります。音楽のストリーミングアプリケーションであれ、OEM固有のアプリケーションであれ、Android Application Package(APK)を具体的なAAOSシステムでテストするということです。

アプリケーションの中には、車と特に緊密なインタラクションが必要なものもあり、ユーザーインターフェイスを車の条件に合わせる傾向が高まっています。

Anbox Cloudは大規模な自動テストにより、このようなテストの要件すべてに対応します。Anbox Cloudの新しいVHALサポートでは、開発者がアプリケーションと車のインタラクションを綿密に制御できます。VHALをクラウドベースの仮想ECU(電子制御ユニット)や録画済みのデータストリーム(Anbox Cloudに含まれるAPI経由)に接続することも可能です。

DevOpsとCI/CDの最適化

DevOpsとCI/CDは多くの開発サイクルを短縮します。これらの方法は車載インフォテイメントシステムにも応用可能です。自動テストと自動デプロイは、問題を短時間に特定して修正し、新しいコードが実運用環境で有効に機能することを確認するのに役立ちます。

この厳しいテストプロセスがソフトウェアの安定性とパフォーマンスの信頼感を高め、更新や新機能の配信を容易にします。Anbox Cloudをワークフローに統合することで手作業や反復作業が減り、開発者がメンテナンスより革新に力を注ぐことが可能となります。

Androidインスタンスへのリモートアクセス

Anbox Cloudは、Androidインスタンスと管理ポータルへのリモートアクセスを提供し、仮想Androidデスクトップインフラストラクチャ(VDI)の役割を果たします。ユーザーはローカルでと同様にAndroidシステムを使用できます。この機能は、リモートデバッグ、機能のデモンストレーション、トレーニング、リモートサポートに特に便利です。

Androidインスタンスへのリモートアクセスは開発チームの柔軟性と対応スピードを高めます。開発者は場所に縛られることなく速やかに問題に対処できます。

結び

Anbox Cloudは、Android環境の効率的なテスト、カスタマイズ、デプロイを助け、CI/CDパイプラインにシームレスに組み込める点で、開発者にとって強力なツールです。新しいAnbox車載機能で未来の自動車開発に踏み出し、次世代の車載インフォテイメントシステムやアプリケーションを生み出す優れたツールを体感してください。

Canonicalの車載機器対応ツールとソリューションの詳細は、車載専用ソリューションのページをご覧ください。

車載インフォテイメントまたは車載機器の開発をお考えですか?お問い合わせをお待ちしています。

詳細情報

Anbox Cloudの詳細情報

Anbox Cloudについての解説動画プレイリスト


AndroidGoogle LLCの商標です。Anbox Cloudは、Android Open Source Projectを通じて提供されているアセットを使用します。

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